02
高崎アリーナ

鉄道との関係性を大切にした、高崎の新たなシンボルとなる自然光アリーナ

高崎のシンボル性を意識したデザインと自然採光

高崎アリーナは高崎駅の南側約500mの三角形の変形敷地に建っている。周辺の9割近くを新幹線と在来線の線路に囲まれている特殊な敷地環境である。
「周りを鉄道に囲まれている土地なので、新幹線側に大きく開放的に広げ、賑わいがよく見えるようにデザインしました。高崎市のアイコンとなるようなシンボル性を意識したデザインになっています」と、企画開発部部長の窪田は説明する。
同時に、6,000人規模の国際的なアリーナでありながら、市民にとっても利用しやすい施設として、ローコストで維持・運営ができるようにする必要があった。そこで、照明のエネルギーコストに着目。アリーナの消費エネルギーの多くは照明に使われているため、自然採光を取り入れることにした。スポーツの競技に影響のない角度から間接的に自然光を取り入れる構造を目指したのだ。
しかしながら、施主である市の担当者は当初懐疑的だった。「非常に勉強熱心な方々で、全国の様々なアリーナを見学した結果、このような採光をしているアリーナはほとんど存在しないということだったのです。それでも、近い採光方式を導入している図書館を探し出し、そのご担当者と施工会社と一緒に事例を見学に行きました。そこで光を体感し、これならば、と納得していただいたという経緯があります。」(建築設計部門副部長 小林)。

3D曲面が描けるソフトと、モックアップを駆使

高崎アリーナは折り紙のような屋根構造を採用し、リズミカルに反復する自然光の帯によってアリーナ全体に北側からの安定採光を届けている。外光の導入は天井面から行うため、直射日光が差して競技に影響することはない。
「屋根が複雑な形状なので、チーム内でデザイン共有を図るためにも3D曲面が描ける新たなソフトの導入を会社に提案しました。それがすぐに採用され、若手の意見も柔軟に対応してくれる会社だということを実感しました」(建築設計部門 稲垣)。
この稲垣の3D画像と原寸大のモックアップによって、複雑なデザインについて施主・施工者・設計の間で意思統一をはかり、何度も綿密なキャッチボールを行うことができた。
「構造建築としては、ハイサイドライトを有する流線形の屋根を、どのような構造フレームで実現するかがテーマの一つでした。例えば、主要なトランスフレームとなるハイサイドライト面は、構造部材が極力目立たないように配慮して計画しています。また、屋根形状が複雑な箇所は、稲垣さんと一緒に3D-CADのデータを構造解析ソフトに読み込むことで、モデル作成の省力化を図りました。」(構造設計部 三宅)

大幅な変更にもチームワークで対応

実は、高崎アリーナは当初3層で設計されていたのだが、コスト面の関係で2層に変更されることになった。その際、デザインを変更せずにそのまま1層分を抜き取るだけにすることもできたが、設計チームにはデザイン面で妥協するという選択肢は取らず、1からデザインをやり直すことにした。新たなデザインでは「新幹線の座席から見たときの目線と屋上面(陸屋根)の高さを合わせることで折り紙構造の屋根フォルムが一番良く見えるようにする」という新たな考え方を取り入れたり、「1F床レベルを地盤面より2.5m程度上げることでコスト削減を図る」など、いくつもの改良が加えられた。
「大きな壁にぶつかりましたが、それによって逆に良くなった成功事例だと思います」と窪田は語る。「私のデザインイメージを若い人たちが3Dソフトを操り具体的につくり上げていく過程で、個々のイメージが入り込むことによって、当初イメージしていたものよりもより良いものになったのです」(窪田)。
また建築設計部門の河野は「このプロジェクトでは、デザインの議論をする際に、そのデザインが持つ意味を言語化して説明することの大切さを学びました。議論が進む中で、機能性や合理性を兼ね備え、デザインがより深化していくのを肌で感じました。そのため、このメンバーで議論して出た答えは、絶対に良いものなのになると確信することができました」と、プロジェクトを通じた自身の成長とメンバーへの信頼の厚さを語ってくれた。

施主と施工者と三位一体となり、「良いもの」をつくっていく

アリーナのサインデザインのために外部から参加した氏デザイン(株)代表取締役の前田氏に、外部スタッフから見た山下設計の印象を聞いてみたところ即座に「こだわりの強さ」を指摘した。「窪田さんが施工が完了した現場で通路の天井を見て、これは良くない、とすぐに塗り直しを指示して別の色に塗り変えたのには驚きました。その時点でも施工側が対応してくれるということは、それだけ良好な関係性ができていたということにもなりますね」(前田氏)。
施主と施工者と設計者が三位一体となって本気でものを言い合って良いものをつくっていくという関係ができたという。そんな理想的な関係をつくりあげた立役者の小林にその秘訣を尋ねてみた。
「仕事をしていく上で、施主や施工者とは長いお付き合いになりますからその場しのぎは通用しません。真摯に接し続け密な人間関係を築くということ以外の方法を私は知りません。これはどのプロジェクトでも同じです」(小林)。
現場ではヘルメットをかぶりながら汗だくになって議論を重ね、完成後は肩をたたきながら喜び合い、一生続く関係をつくることができたことを実感しているという。竣工式では施主から「日本一の体育館」という言葉をいただいた。
「クライアントに誠実」という基本理念は、プロジェクトを通じて若い社員に引き継がれてゆく。


執行役員 企画開発部 部長 窪田研


第2設計部 副部長 小林順


第3設計部 河野泰造


監理部 主任 三宅由祐


氏デザイン株式会社 代表取締役 前田豊

※役職は2018年7月現在